その視界を彩るもの
* * *
「初さん、今日はありがとうございました!」
「こちらこそだよ。ホント手ぶらでごめんね……」
「いえいえ、まさか!私が強引に押しきっちゃったので!」
梢ちゃん家のマンション、エントランスホールにて。
クロックスを履いて見送りに来てくれた梢ちゃんは、胸の前で両手を振って慌てたようにそう口にした。
それを聞いて首を振るのはあたしの番で。
「イサゾーにちゃんと渡しておくね。約束する」
あまり気を遣わせるのもどうかと思ったから、話題を腕に掛けたモノに移行させてみることに。
花柄の可愛いラッピング袋に包まれたビン。その中には、"梢ちゃんのお母さん"御手製らしいジャムが入っている。
その袋を掲げてみせたあたしを目の当たりにした彼女は、一度動きを止めてしまう。
けれど手中にある二つのビンに気を取られているあたしが気付くことは無くて。
「あたしの分まで本当にごめんね。ありがとう、今度改めて御礼する」
「いいんです!私が初さんに貰って欲しかっただけなので」
「―――勇兄のこと、よろしくお願いします」
どんな感情を抱えて梢ちゃんがその言葉を口にしたのか、あたしはきっと解ってなかった。