その視界を彩るもの
困ったように眉尻を下げては笑みを浮かべ、大きく頷いてみせる。
少しでも梢ちゃんを安心させてあげられたら。そんなことを思っての行動だったけれど、
「初さんが勇兄の彼女さんで、本当に良かった」
「……っ」
罪悪感が胸を刺す。
あんなに小さかった筈の嘘が、今ではどんどん膨れ上がってしまっていて。
だってあたし、本当は違うのに。
「梢、ちゃん……」
「なんですか?」
「………」
「初さん?」
イサゾーの友だちに過ぎないのに。
イサゾーはあたしがアカネに嘘を吐いたときも、確かに窘めるようなことは言わなかったけれど。
でも、それでもいずれは好きな人だって出来ると思う。
それが誰かなんて判らない。
あたしには全然わからない。
「……ううん。ごめん、なんでもない」
ごめん梢ちゃん。あたし本当は、イサゾーの彼女なんかじゃないよって。
伝えようとした言葉の出先。それを口にしようとしたら胸に鋭い痛みが突き刺さって。
ずっくり、抉られるみたいに。
結局、また、伝えられなかった。