その視界を彩るもの
/イチゴジャムと兄妹
「初、ちょっと手伝ってくれない?」
「んー」
「初ったら!」
「はぁーい」
ごろごろとソファーで丸まるようにしていたあたしに、母親からドスの利いた声が飛ぶ。
それを耳にしてようやく身を起こしたけれど。
「これ、テーブルに運んじゃって」
「………」
頼まれた内容に目を丸くした。
そりゃそうだ。夕飯にしちゃえらく早い時刻だし、何を運ぶのかと思ったら。
梢ちゃんと別れたのは今から大凡1時間くらい前で。
家の窓から覗く外の景色は、沈みかけた夕陽によって柔く橙色に染められている。
今日は日曜日。したがって、母親も在宅していた訳で。
至極当然だと言わんばかりの表情で差し出されたトレイには、先刻梢ちゃんからもらった可愛らしいジャムが乗せられていた。
「ちょっと遅いけど、おやつにしましょ」
母親の背から見え隠れしているのはパンケーキ。
ちょっと、なんてまさか。時刻としては大分遅いと思うんだけど…。
しかしながら、あたしも早く梢ちゃんママお手製のジャムが食べたかったからその言葉は呑みこんでおく。