その視界を彩るもの
翌日の放課後。
"―――もしもし。ウイ?"
「ああうん、あたし。どうしたの?」
鼓膜を柔に揺らすイサゾーの声に問い掛ける。
降り立ったのはイサゾー宅の最寄り駅。ただし実家ではなく、ボロアパートのほうの。
バッグの中のビンにできるだけ振動を与えないように、気を遣いながらスマホを宛がう。
疲れているのか、電話口向こうのイサゾーは軽く嘆息して言葉を続けた。
"迎えに行けなくてごめん。今どこ?"
「あー、全然いいって。いま最寄り着いたとこ」
むしろ、目立たなくて良かったって言うか。
"……早いわね…嗚呼、そうだ"
「なに?」
"この間渡した合鍵って、今日持ってる?"
「持ってるよ」
"じゃあ、悪いけど先に上がっててくれない?ちょっと野暮用で遅くなりそうなの"
うん?そこまで会話を続けて、ふとイサゾーの背後が騒がしいことに気付く。
"柳てめぇッ!こんなとこに居やがっ―――グハッ、"
"ウイほんと悪いわね。なんかあったら連絡して"
「ああ、うん……了解」
野暮用=喧嘩ってことか。