その視界を彩るもの
思わず苦笑を浮かべて通話終了をタップする。
イサゾーもやんちゃだなあ。それにしても、今日あいつが来ないと知った女子たちの反応は本当に凄かった。
『今日王子様いないの!?』
『えええっ、そ、そんなあー!!』
『目の保養が!』
『癒しの時間が!』
背後で繰り返される台詞に、思わず吹き出してしまったことは秘密だ。
イサゾーは迎えに来られないことに対して何度も謝ってきたけれど、ぶっちゃけあたしのほうが申し訳ないし。
これでまた以前のようになったらイサゾーは自分を責めるだろうから、今日はちゃんと人通りの多い道ばかり選んで歩いてきた。
まあ、最近はめっきり平和だから杞憂として終わる確信はあったけれど。
ジャラジャラとストラップの付いたスマホをバッグに滑り込ませ、すでに眼前まで迫ったやつの住処を仰ぎ見る。
キーケースから取り出したその部屋の合鍵。
もはや私物のようにストラップの括り付けられたそれは、間違いなくイサゾー宅の鍵で。
渡されたのは数週間……あれ、数ヶ月前?
それから返そうとしても『別に良いのよ。持ってて』の一点張りで、ついにあたしは根負けした。