その視界を彩るもの




* * *



ガチャリ、扉を開けて中の様子を窺う。そして中へ。

若干薄暗い部屋の中心部分へと躊躇いなく歩を進め、ペッタンコなサブバッグを畳の上に置く。


と、その前に。


「(忘れるところだった……)」



鞄の奥底に沈ませておいた、例の花柄に包まれたビン。

両手でそれを取り出し、視線だけ彷徨わせるあたしが求めるもの。それは、




「お」




質素なシンクの扉内側にひっそりと存在していた、賞味期限間近のホットケーキミックス。

実は前からこれに目を付けていたのだけれど、中々使う機会に恵まれなくて。

この部屋の冷蔵庫には卵とか牛乳とか、生活に必要な最低限の食品だけは揃っていることも目視済み。


だから先ほど奴との電話を終えてから、ホットケーキをあのジャムの引き立て役にしてやろうと企んでいた。




身を屈めてミックスの袋を取り出す。

冷蔵庫の中を窺えばやっぱり捉えることのできた食品たち。


昨日パンケーキを食べたばかりには違いないけれど、あたしの無い頭ではジャムの活用法はコレしか思い付かなかった。

まあ、好きだから良いって。



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