その視界を彩るもの




可もなく不可もなし。まあ、あたしの料理の腕は至極平凡なわけで。

レシピ通りに調理したら今まで失敗したことなんて無かったから、そこまで心配してなかったのだけれど。



「……、イサゾー…?」



目の前で黙々と口を動かし続けるそいつの反応が、あまりに薄くて。

喧嘩帰りのイサゾー。そのまま直ぐシャワーを浴びたいと言っていたけれど、焼き立てを理由に必死で嘆願した結果この状態になった。

瞑目して声のひとつも洩らさずホットケーキを食べるイサゾー。食べ続けるイサゾー。


その上にはちゃんと梢ちゃんから預かったジャムも乗せてある。

あたし自身のぶんも勿論あるわけだし、そんなに変な味にはなっていないと思うんだけど。



イサゾーが何も言わないから、あたしもホットケーキを食べるペースが早くなるわけで。

だって、どこか変なところがあるなら知りたいじゃん?


まあでも、




『……ウイ』

「なんでしょうイサゾーくん!」

『美味しい』




詰まるところ取り越し苦労に過ぎなかったようなのだけれど。



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