その視界を彩るもの




イサゾーの台詞を耳にしたあたしはピシリと固まった。そりゃもう石の如く。

嬉しいけど、嬉しいけどさ…!なんでもっと早く言わないのさ!


締まりなく口を半開きにしていたあたしが、胸中のその思いを口にしようとした―――

……その、刹那のことだった。





『ところでこのジャム、どうしたの?』





あくまで自然な物言い。そして振る舞い、身のこなし。

しかしながらあたしには判った、わかってしまった。

その言葉が断定的に述べられたことに。隠しきれない棘を含んでいることに。

空気がヒヤリと冷たくなった気がする。


嗚呼、まだ、駄目だったのかもしれない。






「………気付いた?」

『甘く見ないで』





あたしを見据えるイサゾーの瞳に疑心が芽生えた気がして、体温がぐっと低下した。

だから視線を上げられない。

目を合わせることができない。


逃避したいと願う心から、「浮気がばれた人ってこんな気持ちなのかな」なんて見当違いなことを考えたりもして。



カチャン、イサゾーが皿にフォークを置いたらしい無機質な音が部屋に響き渡る。



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