その視界を彩るもの
その反応に、思わずビクリと肩を震わせてしまった。
あのジャムはイサゾーにとっての地雷だったのかもしれない。あたしはそれに、触れてしまった?
――でも、
『ウイ』
呼ばれた自分の名前。その声音が思いの外柔らかさに満ちていることから、あたしは驚きに目をしばたかせた。
そして視線を持ち上げれば、自ずとイサゾーのそれと搗ち合うことになる。
『元気にしてた?あの子』
「……え」
あたしの動きが一瞬止まる。
だって、言っていないのに。イサゾーに言うのはまだ駄目かもしれないと思って、あの日実家にお邪魔したことはあたしの胸の内に留めておいたのに。
いや、でも待って。イサゾーはさっきこのジャムを口にして、『甘く見ないで』って言った。
それって、あたしがこれをイサゾーの家族からもらってきたって気付いたってこと?
どれほどこの味に親しんできたんだろう。
余程口にしていなければ気付くことはないと思う。
でも、あたしが気を取られた言葉は「それ」だけじゃなくて――
「"あの子"って、どういうこと?」
梢ちゃんはイサゾーママ特製ジャムだって言っていた。
だから、このジャムがイサゾーのお母さんお手製だってことに気付けても、あたしが梢ちゃんと会ったっていう確証はどこにも無いのに。
怪訝な眼差しで声音を向かわせたあたしを見て、当のイサゾーは苦い表情を浮かべた。