その視界を彩るもの
『……ウチの両親のことは話したわね?』
「うん」
『まあ、それが理由で勿論あの人たちは離婚したわけなんだけど』
次々に言葉を生み出していくイサゾーの横顔をジっと見つめる。
自分の両親を「あの人たち」で片づけてしまうあたり、イサゾーの心に潜む傷痕はあたしの想像を遥かに超えるものなのかもしれない。
あまりに感情の籠らない声音に聞いているコッチがヒヤリとした。
『父親は家を出たわ。それから母親は以前みたくすっかりワーカホリックになっちゃって、家のことは正直からっきしだったのよ。完全に梢頼みだった』
「………え?」
『あの子はどうせ「母親が作った」なんて言ったんでしょ?ナイナイ。あの人が最後に料理したのなんて、もう昔過ぎて忘れちゃったわよ』
カラカラと表情を綻ばせて笑うイサゾー。
思わず唇をギュッと引き結んだ。置かれている環境が違いすぎる。
きっと両親の揃った家庭で毎日を過ごしているあたしの言葉なんて、イサゾーにとって何の気休めにもならないから。
『……今はもう何も望んじゃいないわ。でも、そういう理由でアタシの思う"家庭の味"ってのは必然的に梢の手料理になるのよ。だから目隠ししててもあの子の料理を口にすれば直ぐにわかる自信があるわ』
「……そうだったんだ」
『そのイチゴジャムだってそう。あの子絶対、アタシのこと試そうとしたのね』
「試す?」
『今でもちゃんと憶えているかどうか。どうせなら、アタシに直接持ってきたら良いものをさ』
その発言を受けて「ん?」と思う。
首を捻ったまま眉根を寄せてイサゾーを見据えれば、俄かに目を丸くしたヤツが同じく首を傾げていて。