その視界を彩るもの
「……イサゾーって梢ちゃんと、ケンカしてるんじゃないの?」
『は?』
間髪を容れずに聞き返してきたイサゾーを相手に、更にわけが解らなくなる。
だってそうじゃん。普通そう思うじゃん。
あんなに憂いを帯びた表情で話されたら。
後悔してますって顔に書いたような表情で佇まれたら。
あたしじゃなくても、誰でも勘違いしちゃうと思うんだけど?
『喧嘩はしてないわよ。ただ、距離を少し置きたかっただけ』
「……距離って。カレカノみたいな」
『あっはは、アンタってばホントなに言い出すのよ!そんなワケないじゃない。あの子は"あの件"が原因でアタシが族に入ったことを知らないのよ。だから、あんまり夜遅くに帰ったりすると余計に心配させちゃうじゃない』
心配させたくないから、かあ。
やっぱりこの兄妹って、すごく良く似ていると思う。
だからこそ思うことがあった。
あたしは二人がもはや修復不可能なほど擦れ違ってしまっていると思ったから、この言葉を口にするのは避けたんだ。
やっぱり話してみなきゃ分からないことだってある。
……ううん、実際には言葉が必要なときのほうが多いのかもしれない。
「じゃああの黒いメイクボックス、梢ちゃんに直接渡してあげたらいいじゃん」
その瞬間、あたしの「カレカノ」発言に爆笑していたイサゾーの笑顔が剥がれ落ちた。