その視界を彩るもの
ヒヤリとして内心を焦りが占め始めてももう遅い。
だって、一度口にしてしまった言葉はもう二度と取り消すことなんてできないから。
どうやら部屋の隅にあるあのメイクボックスは、イサゾーにとって触れてほしくないものらしい。
――言葉は凶器――
あたしは今それを痛いほど実感していた。
の、だけれど。
『……それはできないわ』
弱々しく呟いたイサゾーの表情を見て思う。
もしかすると違うのかもしれない。
だって、もしも地雷を踏んでしまったならイサゾーの怒りはあたしに向けられる筈だから。
おずおずと上げた視線の先で捉えた奴は、「怒り」と言うよりは寧ろ「焦り」に駆られているように窺えて。
『……自分の中で決めたことがあるの。アタシは梢を襲った犯人を特定するためにこの世界に入った。そう言ったわよね?』
「うん」
『ソイツラをとっ捕まえるまではそれをあの子に渡さないと決めた。そうすれば「早くしなきゃ」ってこの部屋に戻るたびに強く思うの。だから、渡せない』
「イサゾー」
『……復讐ってのは恐ろしい感情ね。もしも明日が捕まえることができるその日なら、』
思わず音もなく息を呑みこんだ。
初めて見る表情。全てを悟り切った、それでいて冷静さも激情さえも併せ持っているようなもの。
『――アタシが代わりにサツに捕まることになるかもね』
綺麗すぎて、危ないと思った。