その視界を彩るもの
/自発的な変化は至難
それは何の変哲もないとある平日の放課後。
『ウイさ、モデルやらない?』
例に洩れずイサゾー宅でのんびり寛いでいたときのこと。
ぼんやりとテレビ画面を視界に映していたあたしの耳に、イサゾーの言葉が前触れなく入り込む。
思わず目を何度もしばたかせて奴を凝視した。
「は?」
全うな反応だと思う。
ただメイクが趣味なだけのあたしに被るような女の子なんてたくさん居るだろうし、それにイサゾーひとりの独断で決めるなんて無理な話。
怪訝さを前面に押し出したように眉根を寄せるあたしを、少しだけ高い位置から見下ろすイサゾー。
クスリと落とされた笑みが耳朶をやんわりと擽った。
『アンタのそのカオ、傑作!』
「……ねえ」
『ごめんごめん。何もピンでって言ってるワケじゃないのよ?アタシと一緒に出てくれない?っていうお願い』
「は、マジなの?」
『残念だけど本当の話。さすがにアンタの普段は化粧濃すぎだからセーブしてもらうけど、どう?悪い話じゃないでしょ?』
「……そりゃ、ちょっとは憧れるけど……」
歯切れ悪く言葉を濁すあたしに対して、単純に首を傾げてみせるイサゾー。
そんな奴に苦笑を返しつつ脳裏に浮上したメンバーに内心げんなりと肩を落とす。
アカネにユカリにアキホ。絶対にバレるだろうな……。
何を言われるのか判らないってのが本音。
まさかずっと黙っているわけにはいかないから、傍らで返事待ちに徹するイサゾーにヘラリと笑いながら頷いてみせる。
あたしの反応を受けて文字通り破顔一笑したヤツは軽やかな足取りでキッチンへと消えていった。
誰も居なくなったリビングで吐き出したのは、未知の未来への微かな不安。
まあ何とかなると思うけれど。