その視界を彩るもの
そして当日。
イサゾーに言われた通りボロアパートと我が家のちょうど中間にある駅で待ち合わせ。
約束の5分前になっても現れないイサゾーにヒヤヒヤしたけれど、
『ごめんウイ!寝坊した!』
ちょうど約束の時間を時刻が指し示したその瞬間、待ち侘びた"王子様"を視界に捉え思わず安堵の息を吐く。
そんなあたしはと言うと緊張からの超早起き。
慣れないナチュラルメイクに奮闘しながらもようやく終えて、更なる試練であるコーディネイトに倍の時間を浪費した。
まあ、その甲斐あって出来栄えは上々だと自負している。
『……って、え、アンタほんとにウイ!?』
その証拠にまずイサゾーを驚かすことに成功したらしい。
「そうあたし。どうよ?全然ギャルっぽくないっしょ?」
『ぽくないも何も、どこの令嬢かと思ったわよ!髪とかどうなってるワケ!?』
「ウイッグ」
『マジで!?』
イサゾーから提示された内容は中々の難問だった。
清楚でナチュラル。加えて淑やか。
普段のあたしからは所謂真逆のその風貌を表すにはどうしたら良いか、連日連夜悩みに悩み抜いたわけで。
やっぱり髪色から受ける印象は大きいから暗くさせることは必至だと思った。
でも今のハニーブラウンはすごく気に入っていてできれば染めたくない。
苦渋の決断の末に今日だけ騙しきることに決めた。
「すごい質のイイやつにしたから。ばれないと思う」
『アタシもそれならイケると思うわ。いや、まいったって言うか……』
「なーに?惚れた?」
『中身がまんまアンタってトコが嘆かわしいけどね』
オーバーなリアクションで残念さをアピールするイサゾーに眉根が寄る。
だけれど直ぐに『ま、』と前置きした奴を見上げて募るのはハテナマーク。
洗練された"王子様"風の姿で微笑まれると、なんだかむず痒い心地になって居た堪れない。