その視界を彩るもの
天気は快晴。気候は穏やか。
気付けばもう冬も半ばであることを思い出した。
『――今日のテーマが"恋人"なんだから、ここは「惚れた」って言ったほうが良いんだろうけど?』
柔くコートに包まれた肩に手を置かれて、引き寄せられる。その犯人は言うまでもない。
驚く暇もなく肩を抱かれる体勢になったあたし。
と、そんなあたしの肩を事もなげに抱くイサゾー。
余りの衝撃に暫くの間言葉を吐き出すことができなくて、ただ呆然と見上げるあたしの視線にパーフェクトな笑顔で応えるイサゾー。
え、え、………え!?
「こ、恋人ッ!?」
思わず声を大にしてガバッと傍らのソイツを仰ぎ見る。
そんな突拍子もないあたしの行動に周囲から突き刺さる視線の数々。
今まで気付かなかっただけで、遠巻きにあたしたちを見つめる同年代の女の子たちの姿を認めて咄嗟に口を噤んだ。
『……"噂"ってのはさ、本人の意思とは関係ナシにどこまでも伸びていくモノなのよ』
「……つまり?」
自らの腕の中に収まるあたしの耳朶に直接そんな言葉を囁きおとすイサゾー。
一度ぶるりと背筋が震えたけれど、平然を装ってあたしもその行動に倣う。
ギャラリーと化すあの子たちの目線から見れば、きっと親密以外の何物でもないだろうとは思うけれど。
『彼女たちは「アタシ」が「読モの柳」だってことも「族の柳」だってことも知ってるわ。どこまで尾ひれが付いてるかは不明だけどね』
「……物知りだね」
『でしょう?でもね、残念ながら問題はそれだけじゃないのよ』
優雅に微笑みを浮かべて言葉をおとしていくイサゾーは、迫り来る時間もあってかおもむろに足を進め始めた。
肩をガッチリとホールドされているあたしも必然的に同じ行動を取らざるを得なくなる。
ちらりと視線だけ流すように何人かの女の子たちを捉えると、一定の距離を保って追ってきていることが窺えた。