その視界を彩るもの
/初めましてになるよね
「―――はあ……」
吐く息が白い。もう冬も近いのかもしれない。
胸糞悪い空間から脱出できたお陰で、あたしの心は驚くほど軽くなっていた。
宵に呑まれ始めた駅前の道のりを、ゆるゆる怠惰な足取りで進んでいく。
所狭しと犇めき合うジャンルに統一のない店たち。
それらから漏れ出す照明がアスファルトを侵食する所為で、夜にも関わらずこんなにも明るい。
そろそろ黒タイにしなきゃいけないかな、なんて。
胸中で妥協へと揺れる中、立ち並ぶショップの最奥に見覚えのあるドラッグストアを認める。
「お」
ちょっとこれは、行くしか無いんじゃないか。
――――ピロリロリーン
機械的な音に出迎えられながらも、ゆるく快適な店内へと歩を進めた。
ちょうど良い暖房が頬桁を掠め、一気に眠気が押し寄せる。だって今日、疲れたし。
なんの目的も無しにこの場所へ来た訳ではなくて。
きょろきょろと彷徨わせる視線が求めるのは、なにを隠そう大好きなブランドの新作アイシャドウなのだ。
できれば今日下校後すぐに向かいたかったのだけれど、あんな詰問(おっと口が滑った)に強制参加させられては叶う筈もない。