その視界を彩るもの
うわー、イサゾーってやっぱり人気なんだ。改めて突きつけられた気分。
無意識の内に口をあんぐりと開けて隣のヤツを見上げていれば、クスリとおとされた微笑が頭部を撫ぜた。
そして『清楚な女はそんな阿呆面するワケ?』と言われて瞬時に真顔に戻してやる。
ただし、余程ツボに嵌まったのか暫くクスクスとした笑みが耳に入り続けたけれど。
「で、問題ってなに」
だから若干不貞腐れたあたしの言葉は、明らかにムッとしたものになったのは言うまでもない。
『……くくっ、うん、ああ、そうね。今までの「柳勇蔵」には女の影が全く無かったのよ。解る?』
「イサゾーって彼女いたことないの?」
『ソコじゃないのよ……まあ答えると、天龍入ってから色恋はからっきし』
「イサゾーってホモなの?バイなの?」
『……アンタそれ本気で言ってるの?』
呆れた、と言わんばかりに吐き出された溜め息。
その憂げな表情だけで多分コイツ食べていけるんじゃないかな。
「儚げな王子様」とかって名前が付いたポラがオークション形式で高値で落札される光景がありありと思い浮かぶ。
『話戻すけど。まあそういう理由で、今アンタの存在が飛ぶように噂で広まってるワケ』
「………え」
『言っておくけど今回の撮影は後出しに過ぎないのよ?キッカケはアンタ自身。忘れたとは言わせないわよ』
カチリ、寸分違わずに搗ち合った視線。
ニヤリと勝ち誇ったように笑むイサゾーとは対照的に、ぐるぐると無い脳みそから該当する記憶を引っ張り上げるあたし。
そして覚えのあるものが脳裏を掠めた瞬間、「あっ」と小さな叫号を上げてしまう。