その視界を彩るもの
「もしかして……あたしがアカネに嘘吐いたから?」
『正解』
きょとんと目を丸くして見上げるあたしなんてお構いなしに、ケラケラと声を上げて笑い始めるイサゾー。
背後から覗くギャラリー集団がそんな絶好の機会を逃すはずもなく、頻りにシャッターの音が切られ始める。
ちょっとちょっと、イサゾーさん。盗撮されてますよ。
日頃であれば揶揄する口調で口角上げて指摘しているんだろうけれど、如何せん今は無理だった。
俯き加減に髪を垂らした――と言ってもウイッグだけれど――あたしを横目に捉えつつ、イサゾーは眸を細める。
当のあたしはと言うと、どっぷりと脳裏に広がった思考の海に足が捕らわれて身動きできなかった。
『ウイ』
それでも、鼓膜を震わせたイサゾーの心地好い声音に意図せずとも顔を引き上げる。
『……泣いてるの?』
「……は?」
『なぁんだ。てっきり打ちひしがれちゃったのかと思ったのに』
そんなことを言いつつも微笑を象ることをやめないイサゾー。
それはきっと、最初からあたしが泣いているなんて思っちゃいないから。
「イサゾーこそどうなの?」
『なに?』
「こんなに騒ぎが大きくなっちゃって。これじゃ、"付き合ってる"ってのが今更ウソなんて通らないよ?」
『それはそうね。アタシだってそう思うわ』
「彼女だって思われるのがあたしなんて、イサゾーもとんだ災難だよね」
徐に視線を外しながらこぼしたのは、恐らく自嘲的な笑み。