その視界を彩るもの
いつになく後ろ向きな考えを連ねに連ねるあたしを見兼ねてか、大仰すぎて故意的にも取れる溜め息を吐き出したイサゾー。
それを耳にしたところで心情の機微に変調が訪れるわけでもなく。
『……あのねえ!』
……余りに強情なこっちに遂に焦れたらしいイサゾーは、下手したら追っかけの子たちにも聞こえちゃうんじゃないかと危ぶむほど声を大にして言葉を重ねた。
『迷惑だとか後悔だとか感じてたら、アタシがこんな真似すると思う?しないでしょ?だってアンタを連れてカップル特集に向かうなんて、その噂を真っ向から肯定するようなモンじゃない』
「イサゾー!声デカすぎ、」
『大体いつまでもウジウジしてるアンタが悪いのよ。一度でも「付き合ってる」って嘘吐いたことをアタシが責めたことあった?ないでしょ!』
「だって」
『種蒔いたのはアンタ自身なんだからもっと胸張ってなさいよ!もう!』
怒り心頭に発したらしいイサゾーは、あたしの肩にまわしていた腕を荒々しく離すや否や代わりに腕を引っ張ってきて。
瞬きをする間に済んでしまうその行動。
ただ流れに身を任せるしかないあたしは、ポカンと間抜け面を晒したままかのイサゾーを見上げていた。
視界を彩る景色が、予想だにできないスピードで移ろっていく。
信じられないことが起きた。
でもあたしはそれをちゃんと目視していた。感じていた。
頬に柔い熱を、至近距離で囁くその唇を、遠巻きに見つめてくる女の子たちの声なき悲鳴を。
それに何より、あたし自身の心臓が生きてきた中で一番華を伴って早鐘を打った。