その視界を彩るもの
/蹲ったままじゃ居られない
昔、仲良かったある女の子が言っていた。
男女間で友情は芽生えないって。
男はみんな下心を持っているって。
だから手を出された瞬間、大事にしていた関係は呆気なく崩壊しちゃうんだって。
でもそれって、一体どのラインから?
手を繋ぐくらい大目に見てよ。
ハグだって許容範囲でしょ。
じゃあ頬にキスは?それだって外国なら普通に目にするものでしょ?
……イサゾーは女になりたいわけじゃない。
だって頬から唇を離した瞬間、呆然と目を丸くするあたしを見下ろした奴は笑んでこんな言葉を口にした。
『アタシはバイじゃない。でも、ウイは抱ける』
耳朶にすれすれのところで、囁きおとすように。
バイじゃない、ゲイでもない。あたしは抱ける。
それが意味することは一つだけ。イサゾーは普通の男だってこと。
オネエ口調で喋るのは梢ちゃんを恐がらせないため。
秘密を共有するのは家族のほかにはあたしのみ。
イサゾーがあたしの頬にキスをした。
「付き合ってる」とアカネに言ってしまった嘘をホントウにしてしまった。
……ううん、当のあたしたちの関係は変わらないけれど周囲は確信を得てしまった。
ちょっと待って、変わらない?
あたしたちの関係は変わってないの?
変わってない……んだよね?
「……、やばい」
風呂上がりで髪も乾かさないまま、自室の枕に頭を埋める。
たった一つ胸の中に咲いた想いに気付かない振りを貫くのって、案外難しいことで。
溜め息を吐いたままぐるぐると脳を駆け巡る感情を持て余す。