その視界を彩るもの
あのあと拍子抜けするほど直ぐに辿りついた撮影現場は、想像に反して割と小規模のものだった。
スタッフらしき人たち相手に慣れたように挨拶を済ませていくイサゾー。
それと、そんな奴の後ろに付いてただただ頭を小さく下げるだけのあたし。
いつものオネエ口調を封印して「普通」の喋り方をするイサゾーは、正直言ってあたしから見れば違和感だらけだった。
あれよあれよという間にこなされていく撮影。
テーマ通り、あたしをイサゾーの「彼女」だと信じて疑わないスタッフさん方。
『ウイ、アンタ素質あるんじゃない?』
他の人たちの目を掻い潜っては耳元でおとされるイサゾーの囁きに意味もなくドキドキしたりして。
近すぎる距離に高鳴る胸を止められなくて。
あたしの腰に腕を添えて頭上から見下ろすふたつの眸を見ては頬に熱を集めたりもして。
普段ならお揃いのハニーブラウンの髪が風に靡くたびに、触れたい衝動に駆られたりもして。
本当に可笑しかった。
不思議だった。
イサゾーとはほぼ毎日顔を合わせているのに。
そう、まるで。
……まるで、あたしがイサゾー相手に恋に落ちたかのように。
「はぁ」
ひとりでに口を衝いて出た溜め息が枕に吸い込まれていく。