その視界を彩るもの




あの撮影の日からかなりの日数を跨いだ気がする。

なんだか気まずくて、あれからイサゾーの家には行っていない。

折角来てくれている迎えも、適当な言い訳を付けてはぐらかしてる。


暫く顔を見ていないだけで、こんなにも頭の中はアイツで一杯だ。



「………」



明日は例の雑誌の発売日。

それはあたしの誌面デビューってよりも、「柳勇蔵の彼女」が正式にお披露目されるって意味合いのほうが強いことは確実だ。

緊張と不安に押し潰されそう。

本音を言うと明日学校休みたい。あたし、こんなに弱い奴だったっけ?

でも明日一日くらい欠席したところで、いつも通りの状況に戻るわけでは決してないんだから。


……それにきっと、明日よりも一週間後のほうが噂も広まって騒ぎが大きくなると思う。




何を不安に思うことがあるんだろう。

あたしは「表向き」イサゾーの彼女。それをアイツ自身も認めてくれたからこその結果。

確かに最初はちっぽけな嘘だった。

アカネは強い。彼女が一言吹聴すれば、きっと「初って柳くんと付き合ってるんだ」と思う子たちが沢山居るはず。

明日の雑誌で、その水面下ひっそりと漂っていた噂が当人たちによって立証されるわけで。


堂々としていれば良いじゃないか。

イサゾーだってそう言ってくれた。

あたしにはイサゾーが付いてる。何も不安に思う必要なんてない。



アカネがあたしを「敵」と見なすことは殆ど確実だと思う。

もしかするとユカリやアキホは、アカネ側について離れていってしまうかもしれない。



いつかのあの日、脳裏で比べたことをもう一度試みる。

あたしはイサゾーが一番大事。アイツの傍に居られるなら、誰が離れていっても大丈夫。

ちゃんと自分自身の力で立っていられる。


自らを奮い立たせると同時に、徐に取り出したスマホで立ち上げるのはあのアプリ。



< 176 / 309 >

この作品をシェア

pagetop