その視界を彩るもの
あたしの一人の存在の所為でモデルとしてのイサゾーの人気が落ちる。
その事実を考えただけで、立っていられないほどの衝撃を受けた。
「どうしてくれんの?アンタの所為で、柳くんがすっごい迷惑するんだよ!」
「あたしはっ、」
「よく平気なカオできるよね?まさかそんなことも考えてなかったの?バッカみたい!」
最後の仕上げだとでも言うように、用具扉の裏に置かれていたバケツに汲まれた水をぶっ掛けられる。
ポタポタと水滴が髪を滑り、目の前を通って落下していく。
現実にしては余りに受け入れ難いその光景が事実だってことは、肌に張り付くシャツの感覚が痛いほど伝えてきていた。
痛い……痛いよ。胸の奥がすっごく痛い。
「わかったら早く別れなよ」と笑いながらトイレを出て行った先輩たちの背中を虚ろな瞳で見送った。
どくどくと早鐘を打つ心臓をシャツ越しにぎゅっと強く握り締める。
あんなに強く奮い立たせて家を出たのに。
あんなに強く自らを叱咤して校門を潜ったのに。
……たった数人の「読モとしてのイサゾーを好きな女の子」と向き合っただけで、自分の弱さがこんなにも浮き彫りになるなんて考えもしなかった。
「………」
今あたし、ものすごく後ろ向きだ。
本当はこのまま家に帰っちゃいたい。
でもそれは駄目だって心のどこかで理解している。
今日逃げてしまえば、きっと明日この場所に来ることができなくなる。
【がんばれ】
あたしを今も違う場所から応援してくれている人が居る。
「柳勇蔵」と一緒にいるなら、いつかは向き合わなきゃいけない現実だった。
それが今試練として立ちはだかっているだけ。