その視界を彩るもの




がんばれウイ。がんばれ、あたし。

イサゾーの隣に立ちたいなら堂々としていなきゃならない。そうでしょ?




【アンタはアンタらしく堂々としててよ】




それがイサゾー本人の願い。

だったらあたしはそれに全力で応えたい。





抜け切っていた力を奮い起して膝に手を当て、立ち上がる。

髪を掻き上げれば決して清涼とは言えない水の匂いが鼻を刺した。


体操着に着替えれば何とかなるかもしれない。

次の授業には遅れるだろうけれど、その次だったらきっと間に合う。



歩き始めたあたしは強い瞳を保ちながらも、今し方浴びせられた「アンタの所為で柳くんの人気が落ちる」って言葉だけはどうしても振り払えずに居た。

なにをすることが「正しい」のかが判らない。

でも、こうするしかないから強く在り続ける。


トイレのドアを開けて閑散とした廊下をゆっくりと、でも確実に歩み進めていく。




―――そんなあたし自身の葛藤を見破るように、背後に立つ人物がふたつの瞳を向けていたことには気付かずに。



< 187 / 309 >

この作品をシェア

pagetop