その視界を彩るもの
がんばれウイ。がんばれ、あたし。
イサゾーの隣に立ちたいなら堂々としていなきゃならない。そうでしょ?
【アンタはアンタらしく堂々としててよ】
それがイサゾー本人の願い。
だったらあたしはそれに全力で応えたい。
抜け切っていた力を奮い起して膝に手を当て、立ち上がる。
髪を掻き上げれば決して清涼とは言えない水の匂いが鼻を刺した。
体操着に着替えれば何とかなるかもしれない。
次の授業には遅れるだろうけれど、その次だったらきっと間に合う。
歩き始めたあたしは強い瞳を保ちながらも、今し方浴びせられた「アンタの所為で柳くんの人気が落ちる」って言葉だけはどうしても振り払えずに居た。
なにをすることが「正しい」のかが判らない。
でも、こうするしかないから強く在り続ける。
トイレのドアを開けて閑散とした廊下をゆっくりと、でも確実に歩み進めていく。
―――そんなあたし自身の葛藤を見破るように、背後に立つ人物がふたつの瞳を向けていたことには気付かずに。