その視界を彩るもの
/感情の立ち込めるは瞳
人間っていうのは善くも悪くも「慣れ」る生き物なんだと思う。
あの日から一体どれほどの日数を跨いだのか解らない。
機械的に日々を過ごしていく内に、以前あたしがどんな風に学校での生活を送っていたのか忘れた。
よく笑う人間だったのか。
冗談を言う人間だったのか。
感情を表に出す人間だったのか。
「言葉」を必要としない今の生活を送るにつれて、そんなことを想う行為自体が無駄に思えてならなかった。
だから止めた。
考えることを放棄した。
だって、そのほうがずっと楽で生き易かった。
『ウイはよー』
学校に着けば必ずアカネが声を掛けてくる。
最初は驚きもしたけれど、暫くすればそれが「日常」になった。
学校での「言葉」を失ったあたしは残念ながらアカネに返答することができない。
だから頷く。目を見てちゃんと「おはよう」を伝える。
わからないけれど、もしかしたら以前のあたしもこんな風にアカネとだけやり取りをする人間だったのかもしれない。
席に着けばサブバッグから文庫本を取り出して目を通す。
雑誌は学校では読まない。
楽しくない場所で、自分の「一番好きなこと」をしたくないから。
あんなにジャラジャラと存在主張していたキーホルダーやアクセ類も、移動教室で教室を空けるたびに数が減っていった。
そして気付けばゼロになった。
だから、あたしのカバンには最初から何も付いてなかったんだと思うことにした。
投げやりじゃなくて、開き直っただけ。