その視界を彩るもの
――――……掴み上げたのは、良いけれど。
『ちょっと待ってお願い!それ譲ってー!それが無いとアタシ家に帰れないのよ!』
「あ、あたしだってずっと欲しかったんです!そういう訳にはー……って。は?」
『え?』
「……」
『……』
「………えっと……」
見上げた視線の先に映る、今し方隣に居た人物の全貌。
キリッと文句なく整った綺麗な眉。通った鼻筋。
自然な二重を武器に相手を射抜くような、切れ長の瞳。
ふわっとまとめられた短髪は抜群のヘアーアレンジで。
「今………何と」
おそるおそる視線を持ち上げるあたしを見下ろしたその人は、奇しくもあたしと同じハニーブラウンの頭髪を柔に揺らしながら動揺に肩をビクリ、と。
短く上下させるものだから、直ぐに自らの問い掛けを恥じた。
――――筈、だったのだけれど。
『それ譲って欲しいのよ。お願い』
「いやあの、無理です」
『ケチねアンタ……、お願い!』
「だから無理だって!あたしだってずっと欲しかったし!」
『アンタみたいな強情な女が居るからアタシみたいなのが生きにくいのよ!』
「はぁ!?ヒトのせいにすんな!」
段々と発展する口論染みた会話に、あたしの中でのメーターが「遠慮<欲望」と振り切った。