その視界を彩るもの




だからこそ芽生えた感情がある。

だからこそ護りたいと思ったものがある。


当事者であるイサゾーに心配を掛けることは絶対にしたくない。

でも、この間あの先輩たちに言われた「言葉」が今も尚あたし自身を揺さぶっているのもまた事実で。




「あ、初さーん!」



待ち合わせ場所で相好を崩して手を振るのは梢ちゃん。

先日話したときに連絡先を交換しておいて本当に良かったと実感した。

いきなりの誘いを快諾してくれた梢ちゃんには頭が上がらない思いだった。




「梢ちゃん!ごめん待たせて、あたしがお願いしたのに」

「全然いいんですよー!私も丁度今来たところだったので!……って、あれ?」



急に首を傾げるようにこっちの顔を覗き込んだ梢ちゃんに一瞬ドキリと心臓が跳ねる。

もしかして何かミスしたかもしれない。

何しろ「遊び」目的で外に出るのは本当に久し振りだったから。





「初さん、ちょっと化粧薄くなりました?前はツケマとか付けてたと思うんですけど……」

「ああ、それね!うん、ちょっと……気分転換?かな」

「そうなんですかー!私結構好きかもです、初さんってモト良いから映えますね!」




お世辞全開でそんな言葉をくれる梢ちゃんに曖昧に笑って返す。

正直物凄く焦った。

そっか、ツケマ付けるの忘れてた。……学校に付けていくと、どうせ水掛けられたりして取れちゃうから最近はマスカラだけにしてたんだよね…。



何とか自然にやり過ごしたことに安堵して、静かに話せるところを求めて街に入ることにした。



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