その視界を彩るもの




きっとそんな表情を晒してしまっているのは今日聞こうと思う話の内容が原因だ。

全くの無意識で彼女をそんなふうに困らせてしまった自分が恥ずかしい。


もしかしたら、どんなに割り切っていると言い聞かせても。

心のどこかで、助けを求めたいと願ってしまっているのかもしれない。




「勇兄は、なにも言ってこないんですか?」

「いやね、たぶんイサゾーの前では普通に笑えてるから。梢ちゃんにそんな顔させるつもり無かったんだ……ごめんね」


呟くように謝罪するあたしを首を振って赦してくれる彼女はやっぱり優しいから。

毎日が暗い色に塗り潰されている中で、イサゾーと梢ちゃんだけが暖色を帯びる。

信じられるからこそ「気になること」を訊ねられる。






「あのね、……聞きたいことがあるんだ」





今度こそ冗談抜きに顔が強張っている自覚がある。

でも、それを解くことは難しい。


知りたい、聞きたい、真実を。

でもそれを目の当たりにすることはこんなにも恐怖を伴う。




場合によってはあたしは、考えなくちゃならない……離れることを。

イサゾーの傍に居ることだけが護る術じゃない。

何より、「あたし」の存在そのものが奴の妨げになっているのなら尚更だ。






真剣な面持ちで頷いた梢ちゃんを前に、重苦しい空気を吸い込みながら口にする。




「―――あたしが"彼女"だって公表したせいで、読モとしてのイサゾーの人気が落ちてるってホントウ?」



――…嗚呼、空気が容赦なく肺を突き刺す。

こんなにもズキズキ痛むのは、きっとこの先の未来が見えなくて苦しいから。



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