その視界を彩るもの
「……初さん」
「贔屓目は無しね。梢ちゃん、お願い」
必死に頼み込むあたしを目にして一度形の良い唇を閉ざした梢ちゃん。
その瞳に迷いがありありと浮かぶ。
言って良いのかって、葛藤しているんだと容易に窺い知れる。
でも逆に言ってしまえば、梢ちゃんのその姿が何よりの答えなんだと思った。
「……あー、やっぱり足引っ張ってるんだ。あたしがイサゾーの」
答えを待つのは梢ちゃんを傷付ける行為のように思えてきてしまって。
自分から結論を言ってしまったほうが良いと踏んだ。
でもその言葉たちは、思った以上にあたし自身にダメージを与えた。
逆恨みじゃないけど、なんでアイツあのとき撮影にあたしを連れて行ったりしたんだろう。
もしも「カップル特集」なんかに乗らなければ、今のような未来を迎えることは無かったんじゃないだろうか。
……いや、違うそれは。
意識せずとも「逃げ」に意識が傾いてしまう自分の弱さが今は心底憎くて堪らない。
イサゾーは善くも悪くも注目される人間。
そんな「有名人」の傍にずっと居るためには、いずれ必ずそれ相応の「理由」が必要になる。
イサゾーは手っ取り早くあたしに「彼女」っていう居場所をくれた。
それがたとえ表向きの嘘だとしても、その地位を欲しがる子はそれこそ想像も付かないくらい居るんじゃないかって。
向けられる羨望と嫉妬の眼差しは毎日向けられているから嫌でも解る。
「理由」も無しに傍に居たときはきっと、「あの子が近付けるなら自分だって」と思われて執拗にあとを追われていたんだと思う。
あのときは気付かなかった。
気付こうともしなかった。
ただ「何で追われてるんだろう、しつこいな」くらいにしか考えていなかった。