その視界を彩るもの
そして今の現実。
あたしを正式に「彼女」だとイサゾー本人が認めたことで、彼女たちの嫉妬心に火が点いた。
だからこその反逆。
だからこその反旗。
「支持して欲しければ別れろ」っていう、無言にして強烈なメッセージ。
文字通り頭を抱えたあたしは、梢ちゃんの前だということも忘れて大きな溜め息を吐き出す。
直ぐにハッとして視線を持ち上げたけれど、そんなのやっぱり遅すぎた。
「……梢ちゃんごめん」
「初さ、」
「わかってる。痛いくらいっていうか、もうこれで解ってなかったらあたし単なるバカなんだと思うし……」
でも、でもね。
「ぶっちゃけ、もうどうしたら良いのか本当にわかんない」
ずるずると顎を引き下げた末に視界を占めるのは、素朴なダークブラウンのテーブルの木目。
毎日イサゾーの家からの道すがら、独りになったら同じ考えの繰り返し。
出口のない巨大な迷路。
思考という名の多岐にわたる入り組んだ迷い道。
「イサゾーのためを思ったら離れたほうがいいのかもしれない。でも、一度肯定したのに離れたら今度はなに言われるんだろうって思っちゃうし」
すらすらと口を飛び出してきたのは本音に見せたい建前の言葉たち。
考えれば考えるほど深みに嵌まっていく。
「イサゾーが振られたなんて言われたら、ますます人気が落ちちゃうかもしれないし」
ほら、これだって建前に過ぎない。
あたしの本音はこんなに綺麗なものじゃない。
イサゾーのことだけを考えて涙を流せるようなキラキラしたものなんかじゃない。
「………あたしだって、離れたくない」
最後に取って付けたように零したその呟きこそが、自分勝手でドロドロしたあたしの本音だった。