その視界を彩るもの
思えば梢ちゃんと出逢ってからかなりの日数が経った気がする。
その切っ掛けって言うか、こんなにも距離を縮められたのは間に「イサゾー」っていう存在があってこそのものだってことは重々承知しているつもり。
だからこそ尻込みをした、躊躇った。
あれを嘘だと――「あたしは本当はイサゾーの彼女じゃない」って正直に言ってしまったら、今までのように梢ちゃんと話すことは無くなってしまうんじゃないかって。
他人との距離の掴み方がよくわからなくて。
あたしはもう、梢ちゃんのことは「他人」の域を超えた存在だと思ってたりする。
でも梢ちゃん自身の気持ちはわからない。
ただでさえ分からないのに、これまでずっと吐き通してきたことを今更「嘘」だと告げてしまえば、彼女は一体あたしのことをどう思う?
イサゾーに相談しておけば良かったのかもしれない。
でも、一から十までアイツに頼るのはさすがに気が引けてしまった。
「梢ちゃん」
一度呼吸を整えるように嘆息してから、目の前に座る彼女の大きな瞳に視線を合わせる。
「ごめん―――…あたし本当は、イサゾーと付き合ってなんかないんだ。……友だちなんだ」
カチリ、彼女の腕に光る腕時計が丁度正午を指したことを覚った。