その視界を彩るもの
尚も強い表情で見返すあたしを見て、一度怯んだのは取り巻きの女たち。
でもリーダーだけはやっぱり違った。
「―――、今更後悔したって知らないから」
まさしく鬼。
激昂した表情をそのまま憤怒に塗り替えて突進してきたリーダー女への反応が若干遅れる。
彼女の振り被った拳が網膜に焼き付く。
視界の全てがスローモーションに移ろっていく。
「ッ、」
そして腹部に強い激痛が走った数秒後には、同様の痛みが頬を鋭く駆け抜けていた。
* * *
「……いてて」
あーあ、やっぱり凄い色になってるじゃんか。
さすがに昼休憩直後の授業は欠席せざるを得なかった。
トイレに駆けこんで自らの顔をまじまじと見つめる。
そんなことをしても口から出てくるのは、重苦しい溜め息だけだった。
あのリーダー女に殴られた箇所がズキズキと鈍痛を訴えてくる。
遅れながらも怒鳴られた取り巻きたちに拘束され、あたしは逃げるに逃げられなかった。
『わかった?痛い目みたくなかったら早く柳くんと別れることね』
立ち去る間際におとされた言葉がぐるぐると脳を駆け巡る。
頬を手の平で覆いながら視線を下げて陳腐な蛇口をジっと見つめた。
叩かれた頬は既に紫に変わりつつあって。
今日はイサゾーんちに寄らないほうが良いかもしれない。
あたしのこの「現状」を知って一番悲しむのはきっとアイツだ。
それで自分のことを責めるんじゃないだろうか。そんな気がしてならない。
くそ、今日もグチグチ悪態をつかれて終いだと思ったのに。
何だかんだで手を上げられたのは初めてだったから油断した。