その視界を彩るもの
……あったまきた。
こうなったら意地でも離れてやるもんか。
決意を新たに握り拳をつくって掲げたあたしは、一人ガッツを入れて女子トイレをあとにした。
* * *
憂鬱な息を呑みこんでガラリ、教室の扉を開け放つ。
その瞬間に訪れた沈黙とビシビシ突き刺さる視線。
もはや日常と化したこの待遇に特段思うことは何もない。
好奇と羨望、ただの興味本位。
たくさんの感情に犇めき合った眼差しを受けながら目指すのは自分の席。
そこまでは良かったんだけど。
さすがにこの先の展開はあたしも予想していなかった。
「――――は?」
思わず自分自身の目を疑った。
目の前に無造作に倒された机と椅子。それは紛れもなくあたしが毎日使っているものだ。
倒されたくらいならまだいいよ、起こせば良いだけだし。
怒りにわなわなと震えだす唇をガリッと噛み締める。
問題はその机の中。
「誰」
自分でも信じられないほど冷たく、大きな声が出た。
眼光を鋭くさせて教室中に視線を走らせる。
ニヤニヤと破顔してあたしの様子を見ている奴ら、ばつが悪そうな顔でフッと視線を逸らす奴ら。
―――そいつら全員なぶり殺してやりたくなった。
ガンッ!!!
あたしが蹴飛ばした椅子が悲鳴を上げて転がっていく。
毎日毎日毎日毎日……なんなの?
そんなに愉しい?
愉快で仕方ない?
ターゲット決めて揶揄して調子乗ってんのが楽しいワケ?
「イサゾーとあたしがッ!!あんたらに何かしたのかよ!!ふざッけんな!!」
――…倒された机の中に押し込まれた雑誌の紙切れたちがふわり、舞って落ちていく。
「雑誌」と呼ぶには最早原形を保っていなかった。
ズタズタに切り刻まれた「あの日」のイサゾーとあたし。
笑顔で寄り添うあたしたちが、他人の手によってバラバラに切り裂かれていた。