その視界を彩るもの
あたしが声を荒げて怒りを顕わにして直ぐのこと。
蹴飛ばした椅子が原因で大きな音が響き渡ったせいか、他の教室の生徒が集まり始めていて。
騒ぎを聞き付けた教師たちも何だ何だと姿を見せ始める。
ひっそりと息を押し殺して自らの席に着いているクラスメイトたち。
片や立ち上がり肩を上下させているあたし。
「周り」の視界にどっちが異色に映るかなんて、言うまでもなく明白だった。
「……チッ」
無意識の内に口からこぼれ落ちていた舌打ちを教室に残し、髪を波打たせてその場をあとにする。
背後でその動向を探っていたらしい教師の制止の声が聞こえた気がしなくもない。
けれど、もうあたしの耳には何の音も入ってはいなかった。
怒りに支配されて己を見失っていたのかもしれない。
でも後悔なんて微塵もしていなかった。
廊下を突き進みながら思考の海に浸かる。
足取りは荒く粗雑なものだったけれど、そんなの別にどうだって良かった。
……周りの人間の態度が急変してから数週間。
まさか相手がこんな行動を起こしてくるなんて想像も付かなかった。
こんな方法であたしの神経を刺激しようとしてくるなんて、余程消えて欲しいらしい。
そんなに気に食わない?
じゃあ消えてやろうか?
アンタらが望んだ通りこの場所から跡形も無く消えて行ってやろうか?
その方法なんて知らないけど。
新たな目的地だって何も決めちゃいないけど。
――…ただ、今までみたいに自らの怒りから目を背ける行動そのものが馬鹿馬鹿しく思えてならなかった。