その視界を彩るもの
もしかしたら消えることを「逃げ」だと言われる日が来るかもしれない。
と言うか、確実に言われると思う。
最初こそ「"逃げ"だと思われたくない」と強がっていたけれど、虚勢を張っていたって仕方がないじゃないか。
何とでも言えばいいじゃないか。
あたしはもう、こんな息の詰まるような場所には居たくない。
弱い心が求めるものは安心感。
だから自分でも気付かない内にあたしは例のコミュニケーションアプリを起動させて、イサゾーにメッセを送り付けていた。
【やっぱりあたし、イサゾーと同じ高校に編入しちゃおっかな】
高校だから中学みたいに自分の意志や都合だけでハイ転校、って訳にもいかないだろうし。
我ながら何をバカなことを言っているんだと項垂れた。
イサゾーって確かここよりも偏差高いところに通っているんじゃないっけ?
……だとしたら本当、無謀にも程がある。
ここ数日は持ってきていなかったスマホ。
今日は移動教室で席を離れる授業がなにも無かったから持ってきていたけれど、やっぱり家に置いてきたほうが良かったのかもしれない。
だってこんな風に頼ってしまうから。
「手段」があれば少し弱っただけで求めてしまうから。
こめかみを軽く押さえて薄いバッグにスマホを投げ込んでいれば、ふと背後から掛かった声に足を止める。
「初」
振り返ってその主へと視線をのぼらせれば、そこには息を切らしてあたしを見つめるアカネの姿が在った。