その視界を彩るもの
人気のない廊下にあたしのスマホのバイブ音が響き渡る。
長く長く、持ち主が受話するのを急かしてくるかのように。
だけど当のあたしはそれに応えることは疎か、目の前のアカネの言葉を呑みこむことすら出来ていなかった。
「意味わかんないんだけど」
ハッキリと強い口調でそう音にしたあたしを見ても怯む素振りすらないアカネ。
だから段々とあたしは怪訝な表情に戻っていく。
ぎゅっと力を込めて肩に掛かるサブバッグの柄を握っていると、ようやくカバンの中のバイブが振動するのを止めた。
まるで生を享けていたものが死んでしまったかのように。
強い瞳で見据え続けていても、アカネ自身が口を割らなければ始まらない。
それを訴えかけるように大仰な溜め息を吐き出して見せれば、ここにきて漸くアカネが動揺したように感じた。
「………ウチらが原因なんだよ」
「は? わかるように言って」
「だからッ、ウチらが原因で初が今イジメられてるんだってば!!!」
その口が核心をついた。
その瞬間あたしの瞳は最大限に見開かれる。
ここ数週間の、当のあたしにしてみれば長すぎる期間の発生原因?
「……ウチらが周りに言ったんだ。"篠崎初は柳くんをたぶらかして彼女の座に着いたサイアクな女だ"って」
力を込めていた手からスルリとカバンが落下した。