その視界を彩るもの
いつだったか梢ちゃんがあたしに向けてくれたあの言葉を思い出す。
本当にその通りだったから。
あたしはあの撮影の日から、ずっとずっと迷走してきた。
「あたしの気持ちは変わらない。好きな人は一人だけだ」
―――そしてやっと、その気持ちの正体に手を伸ばすことができた。
こうして口にするのは初めてだった。
まだ上手くまとめきれない拙い言葉達をアカネにぶつける。懸命に。
隣で聞いているイサゾーは話の内容が解らないらしく目を白黒させていた。
でもそれで良いのかもしれない。
だって、伝えるときはちゃんとイサゾー1人と向き合って大切に言葉にしたい。
「……だからアカネ。ごめ――」
「いいって。いいよもう。わかったから」
ぴしゃりと向けられた強気な言葉。
俯き加減で喋っていたあたしが目を丸くして視線を上げると、そこには凛として立つアカネの姿が在って。
「……あーんなモヤシみたいな男のどこがいいのか知らないけど。でも、初が好きなら仕方ない。モヤシに負けたと思うと悔しいけどしょうがないよ」
「アカネ…」
最後の最後に「女」らしい気遣いを見せてくれるアカネが、心底頼もしく見えた。
だってイサゾー本人が目の前にいるのに、さも「ここに居ない男」とでも言うふうに「あんなモヤシ男」なんて言ってのけるんだから。
どこで気付いたんだろう。
あたしがイサゾーの名前を出さなかったから?
イサゾーの目を忍んで軽くウインクしてくるアカネを見て、自惚れ以上にこの子は「あたし」を見てくれてたんだと突き付けられた気がした。