その視界を彩るもの
商店街の人たちは、それはそれは温かさに満ちた素晴らしい方々で。
当の彼女が小さい頃から見守ってきたであろう梢ちゃんを見るや否や、「梢ちゃん、これサービスだから!持ってって!そこのお姉さんのぶんも!」と声を張り上げていて。
立ち並ぶ店一つ一つに入ろうと思ったわけでは無いだろうに、「サービス」と言われほぼ全ての店主さんからお裾わけを戴いてしまった。
お陰であたしの財布から飛んで行ったお金なんて、微々たるものに過ぎなかった。
「す、すごい量だね……」
「初さん!重そうですよ、大丈夫ですか!?」
「いやいや、そう言う梢ちゃんこそたくさん持ってるじゃんか」
辿りついたマンション内のエントランスホールを突き進み、そのまま扉を開けたエレベーターに滑り込む。
手が塞がってたから丁度1階にきていて助かった。
紙袋の紐の間から縫うように指先だけを伸ばし、梢ちゃん宅がある階のボタンを押す。
静かに上昇を始めたエレベーターを見ながらも、あたしは先ほどいただいた品々を穴の空くほど見つめていた。
「梢ちゃん」
「はい?なんでしょう」
「あのさ……もし良かったら、なんだけど」
思い出すのはあの寂寞感漂う冷蔵庫の中身、そしてひっそりとした銀のシンク。
別に手料理を作らないわけじゃないみたいだけど、それだけじゃきっと寂しいだろうから。
「今日もらったお惣菜とか、少しだけ取り分けてイサゾーに持って行ってもいいかな?」
数度ほど目をしばたかせた梢ちゃんは、みるみる表情を華やがせて満面の笑みで頷いた。