その視界を彩るもの
「いただきまーす」目の前で齧り付いた梢ちゃんに倣ってあたしも温かなそれを口に運んだ。
商店街からこのマンションまで然程遠くもないせいか、まだほかほかと湯気を纏っていて。
冷えた身体には沁みる。本当に美味しく感じた。
一頻りお惣菜を堪能して、食後に梢ちゃんが用意してくれたお茶を啜っていたときのこと。
ふとした瞬間におちた沈黙にはたと気付く。
これまであった本当のことを話すタイミングは、今かもしれないと。
あのとき高校にまで来てくれたイサゾーにはちゃんと話した。
そんなに辛くないとか、適当に流しとけば苦じゃないとか。
結局そんなものは全部あたしの独り善がりに過ぎないんだって気付かされた。
―――『馬鹿ね。なんですぐ言わないのよ?……よく今まで頑張ったじゃない、えらいえらい』
そう言いながら一丁前に頭を撫でてくるイサゾーを睨み上げていたつもりだった。
けれど、そんなあたしの頬には涙が一筋伝っていて。
なんでコイツはこんなにも優しいんだろう。それが時どき不思議で、恐くなる。
その優しさから離れなきゃならないとき、果たしてあたしは一人で立っていられるだろうか?
優しさに頼り切るのは良くないことなのかもしれない。でも、抱き締めてくれたイサゾーの熱が酷く心地好かったのを覚えている。
「梢ちゃん」
声を出したあたしを視線だけで受け止める彼女。
心配してくれたのはイサゾーだけじゃなく梢ちゃんもまた同じ。
だから、こうして口にすることがせめてもの償いなんじゃないかと思った。
カチカチ、遠慮がちに存在を告げてくる時計の針の音に耳を傾けながら口を開く。