その視界を彩るもの
「―――~~~ッ!!」
「あ、……悪い万里。大丈夫か?」
何これ。なにこのデジャヴ。ナツキ俺に恨みでもあんの?
額を強く押さえてふらふらと後退した。
余りの激痛に「うっ」と眉根を寄せていればその当事者であるナツキから心配の声音が降ってくる。
まあそれから判断するに、マジで偶然当たったみたいだけど。
え?さっきお前も似たようなことしただろって?
……いいんだよ俺は別に。つーかさっき扉ぶつけてやったヤツは俺なんかより超!頑丈だから、心配するだけ無駄ムダ。
「いや、……いいよ。他の奴なら絶ッ対許さないとこだけど、ナツキに免じて。その代わり貸し一つだからね」
「ああ。マジごめん」
「いいって」
潔いくらいにつむじを向けて陳謝してくれるナツキに若干焦ってそう返す。
この男はこういうふうに向かってきてくれるから好きだ。
ここの連中は皆、年下の俺には何かと上から指図してくるから。
「………話って?」
暫く黙していたナツキから放たれた呟きに点頭をおとす。
と言いつつも何て切り出したらいいのか……得た情報が脳内をぐるぐると駆け廻る。
暫し逡巡してから徐に口を開いた俺は、真直ぐにナツキの目を見てこう告げる。
「―――…マズイことになったかもしれない。ナツキは街に出回ってる"柳の噂"、もう聞いた?」
「一通りはな」
「それなんだけど。尾ひれは尾ひれでもマズイ部類の奴が付いたみたいだ。柳の【 】の件あったじゃん、それが全部アイツの女の篠崎だってことになってる」
「……」
「だからこのまま泳がせておくのは結構ヤバイ。仮に柳の【 】が【 】じゃなくても、連中が今度は篠崎を狙う可能性は否定できない」