その視界を彩るもの
難しい表情で唇を結ぶナツキを見る俺の表情もきっと固い。
……なんで柳なんかのクソ野郎のためにここまでしなきゃならないんだよ。
そうは思うけれど、如何せん「コレ」は放っておけば"天龍"全体に飛び火すること必至だ。
「……勇蔵に言ってその女こっちで匿うか?」
「ダメだナツキ。アイツ絶対拒否る」
「なんでだよ」
「篠崎がアイツの女だってことが公になったからだよ」
長年ずっと張り合ってきたせいか否か。
こういうとき、柳がきっとこうするんじゃないかって考えが自ずと脳裏に浮上してくる。
……中々気付く奴は居ないけれど、アイツは結構プライドが高い。
だから今でもその女護るために毎日そいつの高校まで迎えに行ったりしている。
「他の誰か」じゃ駄目なんだ。
「自分」で、柳自身の手で護らなきゃ意味がないと思っている。そんな確信にも似た感情を覚える。
「ただでさえ昔のこと引き摺ってんだ。アイツは俺らにバレてないとでも思ってるのか知らないけど、その件が絡んでる以上余計なこと言って暴走させるのは避けたい」
「……万里は勇蔵に言わないつもりなのか?」
「言わない。死んでも言わない。だって言って突っ走られでもしたら、全部が全部悪い方向に進むって思わない?」
眉根を寄せて思案するナツキを見て柔く微笑む。
こうやって考え巡らせて糸張る役目はやっぱり、この場所じゃ俺しか居ない。
「……"ホントウ"のこと言ったら多分柳のやつ、相手の奴ら殺すつもりで行くだろうしね」
勝手に何かされるのは御免だ。
だからこの間から時間を掛けて慎重に練った策をナツキに提案すれば、二つ返事での了承を得た。
さて、上手く事が運べば良いけれど。