その視界を彩るもの
歯をぎりぎりと軋ませて鋭く奴を睨み上げるも、あたしの反撃なんてイサゾーから見れば屁でも無いらしい。
それがまたムカつくじゃないか。
胸中をどす黒い感情がぐるぐる立ち込めてきて無意識の内に口角をひくつかせ始めた、その瞬間のこと。
『そうそう。アンタに聞きたいことがあったのよ』
形の整った切れ長の瞳から斜めに視線を流し込まれ、ドキリと心臓が騒ぎ出す。
最近どうも可笑しい。自分の身体がおかしい。
気持ちを自覚してからというもの、こういった奴の何気ない行動で一々ビクリとしてしまう。
それをイサゾーに悟られないよう内面に押し留めることに酷く労力が要る。
「……イヤなことじゃないでしょーね?」
『あら嫌だ。アンタ、アタシを疑ってるわけ?ちょっとー、マジで萎えるんだけど。せっかく梢とお茶するからアンタも誘おうかと思ったのに』
「え、お茶?」
目を数回しばたかせて改めて背の高いイサゾーを見上げてみる。
ふと交差した視線。
どきりどきり、不規則な鼓動を繰り返す胸の内がばれちゃうんじゃないかって正直気が気がじゃない。
けれどそんなあたしなんてお構いなしにコイツは続きを口にする。
『アンタ梢と最近仲良いって言うじゃない。だから……まあ、行きたいって言うなら連れて行こうかと思っただけよ』
言葉にするや否やフイッと顔を背けるイサゾー。
でも、あれれ。気付いてしまった。
勢いよく外方向いた奴の頬桁が、淡い赤に染められていることに。
「……ふふふ」だから途端にあたしは緩む自分の頬を止められそうになかった。