その視界を彩るもの
決意も新たにずんずん先を行くイサゾーの背を追い掛ける。
やっとのことで追い付いたと思えば、もう既に学校から最寄りの駅が眼前まで迫ってきていて。
行き交う人の波を縫うようにして背丈の高いイサゾーの隣に並ぶ。
「ちょっとちょっと、置いてくなんてヒドいじゃんか」
『アンタなんか不気味な行動ばっかするから、ちょっと距離を置いた方がいいと思っただけよ』
「し、つ、れ、い、だっつの!」
『でッ』
勢いもそのままにその背中目掛けてタックルを繰り出してやる。
まさか実力行使に出るとは予測していなかったのか、まるで無防備だったイサゾーはその攻撃を諸に食らっていた。
その瞬間に奴の口から飛び出したのはやはり、低い低い地声の一言。
意味も無く得意満面な笑みを浮かべたあたしを一瞬ギロリとした視線で射抜いて――――いたけれどその表情が瞬時に凍り付いた。
「ふがッ、!?」
『ちょっと大人しくしててちょうだい』
何がなんなのか判らないまま口を大きな手で塞がれ、言うまでも無くその犯人であるイサゾーに目線で訴え掛けるが敢え無く失敗。
そうしている瞬間にも奴の目は周囲を警戒しキョロキョロと忙しなく動く。
ただその顔だけは固定されているから、はたから見ればその様子は窺えない筈。こうして至近距離で見でもしない限りは。
「(どうしたの?)」
案外隙間なく覆われているから声は洩れないだろうし、駄目元で囁きをその手の中におとしてみる。
鼻で息しなければならない現状。絶対に当たっているだろうあたしの鼻息が荒過ぎやしないかと危ぶんでいたら、ちらりと向けられた視線に思わず呼吸を止めた。
どうやら、小さな小さな呟きはイサゾーに伝わっていたらしい。