その視界を彩るもの
だからイサゾーが口を開くのをジっと待つ。
そうせざるを得ない空気が、絶えずあたし自身を刺してきていたから。
そして少しばかりの沈黙に身を置いていたら、ふと視線を戻したイサゾーが音を紡ぎ始めた。
『………勘違いだといいんだけど』
「うん」
『さっき誰かに付けられてたみたいなのよ。……正体までは、わかんなかったけど』
そう言いつつ悔しげに眉を寄せるイサゾー。
でも不意に脳裏に浮かんだ疑問にあたしは顔を顰めた。そして首を傾げつつ、イサゾーに向かって。
「でもイサゾーいっつも、そういう喧嘩買うじゃん。なんで今日は逃げたの?」
『……、それは』
「だって相手が強いかどうかもわかんなかったんでしょ?じゃあ迎え撃てば良かったのに」
『……だって。 アンタを巻き込むわけにはいかないじゃない』
「え?」
苦し紛れにその口から飛び出した言葉。
思わず目を丸くしてイサゾーを見る、見る、見つめる。
『相手も一人だったら別にアンタが居ても良かったのよ。でも、足音が複数に感じたから。 ……それでアンタが盾に取られたりしたらアタシも動けなくなって終りだった』
「………そっか」
『……』
「ごめん。あたしが邪魔――」
『違うわ。アタシはアンタと居たくて居るの。邪魔なのは付けてきた連中よ』
一瞬ヒヤリと胸中に流れ込んだ冷たさは、イサゾーの言葉ひとつでまた温かさに変わる。
ほっと息を吐いて視線を持ち上げた。
そんなあたしを、難しそうな顔でイサゾーは見つめた。