その視界を彩るもの




――誰に何と言われようと構わない――

それは紛れもなく以前のあたし自身の姿だった。

イサゾーと出逢う前は他人のことなんて心底どうでも良かった。


だけど今はこんなにも恐い。

もしもイサゾーに『邪魔』だと言われていたら、あたしきっと打ちのめされて立ち上がれない。





『撒けたみたいだから帰る?』

「うん、そだね」

『ちょっとー、なにアンタそのカオ。ニヤニヤして』

「言っとくけどイサゾーが原因だからね」

『なにそれー?』



ケラケラと笑んで再び歩を進め始めたイサゾー。

足早に追い掛けてその隣に立ち並ぶ。


そして視線が捉えたものを見て少しだけ目を細めた。

手、繋いじゃったな。不可抗力かもしれないけれど。

いつかあたしはその手に、イサゾーになんの疑問も持たせず触れることができるのだろうか。




「恋」ってのは時には人を弱くしてしまうらしい。

相手から辛辣な言動を向けられることを酷く恐れてしまうから。


自分の内で膨れ上がる感情の存在を感じながら、あたしはイサゾーと肩を並べて家路に就いた。



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