その視界を彩るもの




渦中の梢ちゃんが姿を現したその瞬間、あたしは最悪の事態を想定して顔を青くさせていた。

だからそんなコッチの様子を認めた梢ちゃんは、大きく目を見開いて「ぐわし!」とあたしの肩を揺さぶる。



「あっ、だ、大丈夫ですか初さん!? 気分でも優れませんか!? うわああああ、わた、私が遅れたりなんてしたから‥‥!」

「あ、ち、違うよ梢ちゃん! 取り敢えず揺さぶるのをやめてくれると嬉しッ‥‥「ガリッ」




その不気味な音に梢ちゃんの動きがピタリと止まる。

それもその筈、あたしは清々しいまでに思い切り自分の舌を噛んだのだった。

言葉にならない痛みに見舞われ思わず蹲る。馬鹿だ、馬鹿すぎる‥‥!


「ううう、初さあん! 大丈夫ですか!? ああもう、ほんっとにごめんなさい! 痛いですか?そうですよね、めっちゃ痛いですよね‥‥」

「(そんなことないよ)」



顔を上げて首を振れども何しろ痛すぎて言葉を発することができない。

こんなんじゃ全く以て逆効果である。

「痛いよ梢ちゃん」‥‥そう主張しているようなモンじゃないか。




道行く通行人が怪しげな視線をぶすぶす突き刺してくるから堪らない。

しかもそのことにかの梢ちゃんは気が付いていない様子。

だからあたしは痛さを数秒我慢しようと自らを奮い立たせ、すくっと立ち上がるや否や梢ちゃんの大きな瞳を見据えて。




「とりあえずカフェ入ろうか、梢ひゃん」




清々しいほど思いっきりキメ顔で噛んでしまったから恥ずかしすぎて死ぬかと思った。



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