その視界を彩るもの
そんな小さな騒動を経て辿り着いたのはこの間とは別の喫茶店だった。
全国的にも有名なところだから、流石に休日の今日は賑わっていて。
丁度奥まったところに居たカップルが席を立ったので座ることができてほっと一息。
「初さん」
「ん?」
そして漸く舌の痛みから解放されたあたしは梢ちゃんと向かい合う。
真剣な瞳で見据えてくる梢ちゃんに感化されて、マグに伸ばし掛けていた手を慌てて引っ込めた。
「‥‥今日遅れてしまって本当にごめんなさい。初さんすっごく冷え切ってて、本当に申し訳ないです」
「いやいや、いいんだよ。それにしても珍しくない?なんかあったの?」
コテンと首を傾げて疑問を口にすれば、「うっ」と息を詰まらせた梢ちゃんが視線を落とす。
あれ‥‥もしかしてマズイこと聞いた?
だから慌てて訂正しようと口を開き掛けたけれど、言葉を発するのは梢ちゃんのほうが僅かながらに先だった。
「――‥、実は」
おずおずと紡ぎ始める梢ちゃん。その表情は見ているこっちが息を呑むほど真剣で。
だから本当に重大って言うか、隠された理由があるんだろうと思った。
間違っても先日のイサゾー宜しく「寝坊しちゃった☆きゃは」なんて言わないと確信した。
‥‥うん。てかまず梢ちゃんのキャラじゃないしね。
あたしが脳内でつらつらと予想していることなんて知る由もない梢ちゃんは、遂に続きを音に乗せ始める。
「勇兄に会うのってすっごく久々で、何て言うかその、直前まで‥‥決まらなくて‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
「梢ちゃん‥‥聞いてもいい?」
「‥‥、はい」
「それって、服の話?」