その視界を彩るもの
ロングブーツを履いた脚を伸ばし、太腿の上に置いていた白ニットの帽子を手に取る。
梢ちゃんの女子力の高さには恐れ入ります、心から。
「じゃあ今日梢ちゃん緊張してるんだ?」
「、してますよ‥‥! だって実際に直接会うのは私が高校入ってから初めてだから、えーと‥‥2年ぶり?かと」
「えッそんなに!?」
素直に驚いて目をしばたかせる。
この間ジャム食べたときだって『直接渡せば良いのに』って笑ってたから、てっきりしょっちゅう会ってるんだと思ってた。
なんでそんなに会ってなかったんだろう?‥‥これは訊いても良いものだろうか?
イサゾーから聞いた梢ちゃんのこと。
もしかしたらアイツが犯人を捕まえると決めたその瞬間から、アイツが家を出たその日から。
この兄妹は顔を合わせていなかったのかもしれない。
‥‥それなら納得だ。
幾ら兄だとしても、二年も会っていなかったら緊張もするって。
「‥‥本当は会いに行きたかったんですけど。いきなり行って困らせても嫌だし、連絡しようにも中々勇気がなくて」
「‥‥梢ちゃん」
「そうやって時間が経てば経つほど会い辛くなって、あんな‥‥真似を」
あんなマネ?
目をぱちぱち瞬かせて思いを馳せる。
そして行き当たったのは出逢ったあの日の梢ちゃん。心配そうな面持ちでイサゾーの住むボロアパートを見上げる、あの姿だった。
「梢ちゃん。誰もストーカーだなんて思わないから大丈夫だよ」
「‥‥初さんの嘘つき‥‥少なからず思ってたんじゃないですか」
「え!なんで!?」
「だって私一度もその単語出さなかったのに!ていうか言わないようにしてたのに!初さんも心の中では私のことストッ、ストーカーだと思って‥‥!」
「こ、梢ちゃあん! マジで違うからね!?」