その視界を彩るもの
* * *
『あ。ウイ、梢!』
一本の道を隔てた向こう側。
そこで手を振るイサゾーの姿をばっちり認める。
名前を呼ばれた瞬間に鮮やかに色付く梢ちゃんの頬を見て、「まるで恋する乙女だ」と若干複雑になったりもしたけれど。
でもあたしの手を握る華奢なその腕が僅かばかりの震えに包まれているから、そんな思考なんて直ぐにフェードアウト。
梢ちゃんはこれ以上ないくらい緊張しているんだ。他でもない兄であるイサゾー相手に。
ここは、あたしが頑張らないと。
「イッサゾー!待ってろ、いま行くからー」
『(‥‥恥ずかしい)』
ちょっと意気込みすぎて大分距離があるこの場所からそう叫んでしまう。
そんなあたしを『なに考えてんのよアンタ』と言わんばかりにギロリと睨め付けてくるイサゾー。
あ、そっか。これだけ距離あればさすがにオネエ口調で喋れないもんね。
道行く人たちが怪訝さ剥き出しの表情で視線だけをちらちら向けてくる。
空振ったかなって若干ヒヤリとしつつ梢ちゃんに目線を移したけれど、
「‥‥ふふっ」
嘘偽りのない笑みで口許を飾った彼女を見るに付け、そんな心配は吹っ飛んだ。
心なしかぎゅっと強く握られた手に気持ちがまた浮上する。
カラッとした晴れ間がのぞくその道を梢ちゃんと手を繋いで進んでいく。
その向かう先には穏やかな表情で待つイサゾーが居る。
見れば見るほど末恐ろしい美貌を誇る兄妹だと思う。
そんな彼らに挟まれるようにして居るあたしは明らかに見劣りすると思う。
ただ、そんな二人の心に少しでも居場所があれば。
ふとイサゾーがあたしを今日のことで誘ったときのことを思い出す。
もしかしてアイツは梢ちゃんがこうして不安に思うことを、見抜いていたのかなって。