その視界を彩るもの
だけどそんな時間も長くは続かなかった。
どうやらイサゾーは近寄ったあたしの存在に気が付いていたらしい。
集団を睨みつける視線だけはそのままに、梢ちゃんの肩から腕を抜いてあたしに向かってそっと押す。
だから思わず伸ばした腕で梢ちゃんをしっかりと捕まえたけれど、
『ウイ。梢のこと頼んだ』
おとされた言葉と共に流し込まれた一瞥から推察するに、重大な役目を負ってしまったらしく。
だけどこの状況じゃそうならざるを得ないと思う。
だからあたしは力強く頷いた。
梢ちゃんを家に帰すだけなら非力なあたしにだってきっとできる。
‥‥ううん、確実に「成功」させなきゃならない。
人数は多いけれど、イサゾーのことを信じるしかない。
だってそれしか術が無い。
大丈夫だって、絶対に大丈夫だって思っていなかったら、不安に呑まれて沈んでしまいそうで。
背中を見せて集団へと向かって行くイサゾーを少しだけ見つめたあと、「梢ちゃん行こう」‥‥身を強張らせる彼女へとそう小さく呟いた。
驚くようにして少しだけ背の高いあたしを見上げた梢ちゃんの大きな黒真珠の瞳は不安にゆらゆら揺れている。
その表情に感化されてあたしも余っ程眉尻を下げてしまいたかった。
嘆いてしまいたかった。
でも今あたしがそれをしたら、困るのは大事な妹を託してくれたイサゾーだ。